福島の原発被災地へ通ううちに、南相馬を拠点に活動する若い地元の人びとと出会った。被災後、被災地の復興支援に集まった多彩な人材のネットワークを生かし、気がつけば震災前より事業を拡大させ、新しい事業を生み出していた。やがて彼らから新しい復興の拠点をつくりたいからそのための小さな建築を設計してほしい、と依頼を受けた。原発事故による強烈な被災経験を乗り越える彼らのバイタリティをかたちにしたいと考えた。
若き日の丹下健三[1913-2005]は広島平和記念資料館[1955]の設計に際して「平和の工場」をつくると宣言した。求められた「資料館」という機能に対して「平和の工場」とはなんとも大げさな気もするが、求められた機能は単なる展示施設でも、目指すべき機能は広島の原子爆弾被災地に日常を再生産するための施設=工場であるという丹下の考えには共感できる。
復興のための小さな建築に求められたのはメイカーズスペース、コワーキングオフィス、ゲストハウスを含む施設で、それはいわば、福島の原子力発電所事故被災地に新たな日常を再生産する「工場」であった。一般的に工場といえば企業の機密を保持するために外部に対して固く閉ざされる場合が多いが、近年ではものづくりのプロセスを発信する装置としてむしろ積極的に外に開く場合も多い。
当初はイベントの開催なども想定して、大きく求心的な空間を想定した。だがやがて理解できたのは、求められた「仕事をする」「宿泊する」「ものをつくる」などの機能を、ひとつの時間の流れのなかに置くことが、よりふさわしいということだった。イベントの開催による外部への発信の仕方もあるだろうが、ここでどのように新しい日常が再生産されるのか、視察に訪れた人びとに建物のなかを案内するような、静かな発信の仕方もあると感じられた。
そこでオフィスには大きな階段状のスペースをつくり、そこでレクチャーを受けた人びとはアトリエを見学し、その後ゲストハウスをめぐり、最後にシェアオフィスにたどり着くひとつながりの動線をつくり「小さな時間の流れ」を設計することが大事だと考えた。「新しい復興の拠点」とは、被災地の新しい日常を支える仕事を生み出す装置=「しごとの工場」であり、「しごとの工場をつくる」ことを通じて復興の様子を発信するためには「しごとの工場」を見学するための「小さな時間の流れ」をつくることが重要であると気がついた。「しごとの工場をどうつくるか」という大きな問いは、「仕事をする」「宿泊する」「ものをつくる」という、「新しい復興の拠点」のためにとりあえず想定された機能をかたちにする過程で、「小さな時間の流れ」をつくるという答えが見えてきた頃に、ようやく浮かび上がってきた。
Project Date: 2018.12.01
所在地:福島県南相馬市
竣工:2018年12月
用途:集会場・簡易宿所・事務所
構造:鉄骨造
規模:地上2階
敷地面積:415.43㎡
建築面積:156.26㎡
延床面積:280.08㎡
写真: 太田拓実