「Shop U」の設計にあたって自らのつくってきた模型を時系列に並べ、全体を振り返ったとき、それらが「ジャンプしない、枝分かれしない、後戻りしない」という原則に貫かれていることに気がついた。そのようにして作成された模型群は、ひとつの単純なヴォリュームが複雑なヴォリュームに至るひとつながりのタイムラインを示し、まるで卵から魚へと至る、生物の孵化過程を見ているかのようだった。
新しいプロジェクトはショップのインテリアよりはるかに大きな規模であった。できるだけ心を開放して、ゼロから建築を設計するとどうなるだろうという気持ちが、頭のなかに思い浮かぶ情景を実現してやろうという気持ちを上回った。
単純なかたちを置く。決められるところから決める。やがて透明なガラスの基壇の上にペンシル・ビル(細長いビル)が並んでいるようなかたちが生まれてきた。構造と設備のエンジニアとのセッションから、生まれていくかたちに次々と意味が与えられていった。
最終的に38個の模型が残った。それらを生み出すプロセスを振り返ると、21項目の条件が設定されてきたことがわかった。要件の定義が固まり、設計のためのパラメータ(媒介変数)が定まるまでのあいだを「検索過程」、設計が定まってから異なるケースごとに形態を比較して最終形を定めるまでのあいだを「比較過程」と呼ぶことにした。
いくつかの傾向があった。例えば21項目の条件は、最初は大きな条件から定め、小さな条件へと向かっていく。小さな条件を先に決めてしまうと可能性が狭くなる。
私は「ジャンプしない、枝分かれしない、後戻りしない」を原則として、とりあえず決まっていることをかたちにして、課題をみつけ解決するという単純なフィードバックを細かく反復するそのデザイン・パターンを「超線形デザインプロセス」と呼ぶことにした。単純な線形でもなく、非線形というほどマジカルでもない。手続きを都度明らかにして、生まれてくる小さなシステム同士の統合を繰り返していくと創発が起こりやすくなる。いつのまにか出発点が遠く感じられるほどに、高くまで登っているようなイメージである。
Project Date: 2008.05.31
所在地:東京都杉並区
竣工:2008年5月
用途:共同住宅、店舗
構造:鉄骨造
規模:地上6階
最高の高さ:19,788mm
敷地面積:559.38㎡
建築面積:346.02㎡
延床面積:1,611.37㎡
写真: 鳥村鋼一、ハビエル・カレハス・セビリア