正解に向かって逆算するのではなく、決められていないゴールに向かって探求する過程は楽しいものである。建築家にとって、与えられた面積表をただクリアするように、「するべきこと(what to do)」の定められたプロジェクトに参加させられるほどつまらないものはない。私たちの仕事はデザインのレベルの前に、プランニングのレベルで何を提案するかが重要である。
テーブルウェアのショップを開こうとするクライアントは、当初自らの最初のショップについて具体的なイメージをもっていなかった。私はまずできるだけ単純なヴォリュームを想定した。棚はせいぜい30cmほどの奥行きだろうからそれをぐるっと一周させただけのかたちであった。
クライアントに見せてみると、見渡せるのはいいが、見渡せすぎて入りづらいのではないかと言われた。ならばと思い、空間をいくつかに分ける模型を見せた。すると、空間が分かれすぎて入ってきた人に自然に声を掛けられない、もっと自然な距離をつくりたいと言われた。ならばと左右から突起を出した模型を作って見せたら、いいんじゃない、と言われた。この短いやり取りでちょっとずつ前に進む感じが楽しかった。
プロダクトデザインの領域で思いついたアイデアをかたちにすることを「プロトタイピング」という。軽くプロトタイピングしてクライアントに見せ、反応を見てまた次の模型をつくる。どんどんバージョンをつくっていったら最後に見たことのないかたちが現れた。
左右から突起の出た棚で4つの領域をつくり、一番奥に店員の領域がある。この4つの領域は特価品、和食器、洋食器、高級品とジャンルごとに並べることができる。蛇行する動線は訪れた人が自然と長居することを可能にする。
これらの要件は、本来であれば設計を開始する前に定義されていなければいけないものである。だが新しいプロジェクトの場合、デザインの作業は要件についてリサーチし、定義することから始めなければならない。クライアントとのやり取りに夢中になってデザインを進めていくうちに、その作業は要件のリサーチとデザインが平行しており、どこにたどり着くかわからない経験であることに気がついた。それはとても清々しく、楽しい経験だった。
Project Date: 2005.12.01
所在地:埼玉県和光市
竣工:2005年12月
用途:店舗
面積:31.70㎡
写真: 鳥村鋼一