クライアントはプロジェクトが始まる直前に起きた熊本での震災を経て、子どもたちを守りたいとの思いから強さのある建築を希望された。またこの保育園では体育教育に力を入れており、3歳未満児(0、1、2歳)と3歳以上児(3、4、5歳)では身体の発達に大きく差があることから、園舎を大きく2つの部分に分けることが求められた。
敷地を訪れると西隣には神社の鎮守の森が隣接しており、北東方向には水田が広がると同時に遠く花立山とそれに連なる山並みを望むことができた。これらの周辺環境と園舎をいかに関係付けるかを考慮する必要があると考えた。
それぞれの保育室用にふたつの園庭をつくり、ひとつは鎮守の森に、もうひとつは南側の水田に向け、それぞれの園庭を囲うように園舎を大きくカーブさせ配置した。室内外の子どもたちの動きを見渡せる結節点に職員室を含めた管理諸室を、角にステージの付いたホールを配置すると、結果的に変則的なS字のカーブの平面となった。
屋根の構造についてはいくつかの可能性を検討した。台風時の雨の吹き込みを考慮して軒を2m出すこと、音楽の演奏や屋内での運動に用いるホール部分はステージ上で高さ4mの高さを確保することなど、場所ごとに異なる要求があった。最終的に鉄筋コンクリートの平板が同じ180mmの厚さで軒先から園舎の屋根へ連続し、そのまま3次元曲面によってスラブが隆起することでホールの屋根とする連続的な形式となった。自由曲面屋根の形態は、ひずみエネルギー最小化を目的とする最適化設計により形態が決定され、天井高4m、横15mのスパンの空間を無柱・無梁で覆い、壁と屋根を一体の構造とすることができた。
ホールの内側から見ると水平に切り取られた連窓からは遠景の山並みを近くに感じることができる。外側から見ると盛り上がった屋根の形状と、遠くに見える花立山の形状が重なって見え、アルゴリズミック・デザインによる機械言語による形態と、自然の形態がぴったりと重なり、連続した風景となっている。子どもの成長に寄り添い、豊かな自然環境と一体となる「連続体としての建築」が実現できたと感じた。
Project Date: 2018.04.01
所在地:福岡県小郡市
竣工:2018年3月
用途:保育園
構造:壁式鉄筋コンクリート
規模:地上1階
最高の高さ:6,760mm
敷地面積:5,718.42㎡
建築面積:1,281.88㎡
延床面積:1,203.43㎡
写真: 太田拓実