日本では土地の所有者が死亡すると、遺族らが相続する際に多額の税金を支払わなければならない。そのために土地を手放さなければならなくなることが多い。したがって東京の住宅地ではしばしば、住宅1軒が建つ土地がふたつ、3つに分割されて売りに出され、同じような住宅が2、3軒建てられ、販売される。
クライアントから示されたのは、そんな東京の住宅地で典型的な、手前と奥に2分割された小さな土地だった。自動車を置くとほとんど空間が残っていない。1階はガレージで奥に玄関と水回り、2階にリビング、3階にベッドルームというのがこの類の住宅の定番である。が、定番どおりに住み方が決められてしまうのは避けたい。
突破口になったのは地盤の条件だった。支持層が絶妙な深さにあった。もし地上部を鉄骨で軽くし、地下に部屋を設けると杭を用いずに辛うじて届きそうな深さ。地下に部屋を設けるのはコストがかかるが、地上3階建てを地下1階地上2階建てにして杭を省略できるならばバランスがとれる。地上部は3階分の高さ制限のもとで地上2階にできれば、高さ方向に1.5倍の余裕が生まれることになる。
通常は車の高さギリギリに設けるガレージの高さを大きく取った。ガレージはエントランスホールのような、大きく明るい空間になった。周囲は建て込んでいるから窓は慎重に開けなければならない。慎重に、慎重にと窓を減らしているうちに窓はどんどん少なくなり、正面に窓のない家になった。地下室の光庭から吹き抜けを介して屋根のトップライトまで、室内に大きな煙突のような空間をとったところ、室内を大きく空気が流れることとなった。
設計を終えて眺めてみると、壁面が大きく、窓が少なく、ガレージとともに大きな庇のある、倉庫のような家だった。そこで私は「倉庫の家」と名付けた。クライアントは出版関係の仕事をしている方だったので、「倉庫は私にとってなじみがあります」と言って気に入ってくれた。
Project Date: 2011.04.01
所在地:神奈川県
竣工:2011年4月
用途:住宅
構造:鉄骨造、鉄筋コンクリート造
規模:地下1階、地上2階
最高の高さ:7,865mm
敷地面積:57.82㎡
建築面積:31.60㎡
延床面積:56.26㎡
写真: 太田拓実
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