さいたま市の大宮駅前に市が所有する土地があり、従前から要望のあった公衆トイレを建て替えようという話が出た。その際、大宮では東京オリンピック・パラリンピックなどの国際イベントが開催されることから「おもてなし機能」を強化するという目標が立てられた。具体的に何をもって「おもてなし」とするかは地元と対話しながら定めてほしいという条件のもと、私は設計者として選ばれた。
アンケートではきれいなトイレを望む声が多く、Wi-Fiが欲しいという声も聴かれた。他方でパブリックミーティングではまちの商業との関連で意見が多く交わされた。交通結節点である大宮は不動産価値は高いものの、賃料が高いためにナショナルチェーンの店舗が多く、新しい商業事業者が育っていない。だから、この土地は、事業者の育成のために使うべきだというものだった。道路や広場公園などの公共空間を積極的に開放することで新しい商業プレイヤーを育て、まちを活性化する。そのことがまちの「おもてなし機能」を高める。そんな今日のパブリックスペースの考え方に呼応する建築をつくりたいと考えた。
トイレのために確保された予算をやりくりして、全体を「ストリートのようなひとつながりの連続体」として実現したいと考えた。1階のトイレや駐輪場、屋上のテラスを緩く変化のあるふたつの階段でつなげる。トイレから階段、テラスにかけて設置する手すりや壁を、場所によって透過させたい、目隠ししたい、スクリーンを取り付けたい、などの要求条件の違いを反映して素材を切り替えつつ連続的に変化させる。また主要構造部を構成する鉄骨の1次部材は断面を限りなく軽快なサイズとし、ベンチやカウンターの設置される手すりを構成する2次部材はベンチの荷重やスクリーンの風荷重を負担させるため部材の断面を少し大きなものとし、全体が「1.5次部材」で構成されたかのようにして扱う。「連続体としての建築」が、多様な要求と向き合うひとつの構えとなった。
まちづくりの過程に寄り添い、ボトムアップで設計していくことは、計画的で合理的な建築を目指す近代主義が次第に陥ったような硬直性を回避し、ニーズにより柔軟に応えることを実現するかもしれない。しかしそのような近代主義の反省に立ったはずの漸進主義は、やがて場当たり的な対応に陥って、新たな硬直を生む可能性は否定できない。まちづくりの現場でボトムアップの姿勢を貫くためにも、新しい「連続体」の解釈を示していきたいと考えている。
「パリ大学ジュシュー校図書館コンペ案」(設計:OMA, 1992)や「横浜港大さん橋国際客船ターミナル」(設計:foa, 2002)などを通じて1990年代から2000年代にかけて議論された「連続体」というコンセプトは、ベルリンの壁の崩壊やEU統合による新しい「連続」の機運のなかで生み出されたが、英国離脱やトランプ政権発足という「分断」が加速する現代にこそ、「連続」はメッセージ性を帯びる。
Project Date: 2017.05.01
所在地:埼玉県さいたま市
竣工:2017年4月
用途:テラス,コミュニティサイクルポート,公衆トイレ
構造:鉄骨造
規模:地上1階
最高の高さ:7,441mm
敷地面積:240.61㎡
建築面積:173.00㎡
延床面積:179.25㎡
写真: 太田拓実