「BUILDING K」が完成して実際になかで過ごしてみると、設備スペースに面した小さな点検口の地窓(床面に近い窓)を開け、高窓を開けるときに空気が大きく動き、気持ち良く過ごせることに気がついた。そこでもっと空気の動きを手がかりにした住宅を設計してみたいと思った。
住宅設計の相談があり、クライアントから示されたのは、東京郊外の住宅地にある、道路が約120度で交わっている交差点に面した角地だった。当初は大きなヴォリュームを敷地のかたちに合わせて変形させていた。やがてヴォリュームをふたつに分け、それぞれの角度を道路の交わる角度に合わせて配置した。当初は片方が大きく、片方が小さかったが、それらがメイン/サブの主従関係に見えたので、それをなくしていくようにしていくと、ふたつのペンシル・ビルが並んだような住宅になった。
北側のV字の庭に給気のための地窓を集約した。北側で冷やされた空気はそこから入り、東西に大きく開けられた高窓へ抜けていく。南側の隙間に換気扇を集約させると、空気の流れが建築の配置ときれいに一致する。当初は無秩序だった開口の配列に秩序が生まれていく。北側の庭は「給気口の庭」と名付けた。
住宅を「ビル」として設計するというフィクションはいささか、奇妙である。振り返ると、設計プロセスの最初に想像されるものが設計をリードすることはないが、途中で想像されるものが設計の後半をリードする。当初はシンプルな箱型のヴォリュームからスタートしたが、途中までは「家」らしく勾配屋根を載せてみたこともあった。でもそれはやはり不自然だと思えて、やがてペンシル・ビルが出合ったかのようなかたちに収束した。そのかたちは住宅地の風景にも、空気の流れと一致させるという機能にも、よりよくなじんでいるように思えた。
Project Date: 2009.03.01
所在地:神奈川県川崎市
竣工:2009年3月
用途:住宅
構造:木造在来工法
規模:地上3階
最高の高さ:9,095mm
敷地面積:65.39㎡
建築面積:32.77㎡
延床面積:96.83㎡
写真: 樋口兼一