少し特殊な条件での設計が続いていたところへ、比較的オーソドックスな条件で住宅の設計を依頼された。畑として使われていた東京郊外の土地が開発され、新しい住宅群が一斉に建設されようとしていた。今回は都心部のように3階建て以上が前提ではなく、平坦な住宅地の一角、しかも角地だった。ついに木造2階建ての、「普通の」住宅に取り組めそうな敷地に出合うことができた。
いつものように、四角いヴォリュームを置くところから検討を始めた。庭を取りたいと考え、小さな突起を出した。検討を続けた結果、今回はいつものように他律的に解くのではなく、少し自律的に解いてみようと思った。メインヴォリュームの寸法は敷地境界線から追いかけた数値ではなく、6,000mm四方の正方形とした。そこに6,000mmの長さのサブヴォリュームを接続した。1階のリビングと外部の庭が、まったく同じ大きさになった。2階は4分割して3,000mmの部屋をふたつと水回りを置いた。
正面をどちらに取るべきか検討した結果、妻面を西側に向けることにした。緩い勾配屋根を載せた妻面に据えられた窓は、掃き出し窓(1階で出入りにも使われる窓)のプロポーションで2階の中央の、梁がきそうな位置に据えられた。北側と南側の立面の2階には軒にピッタリと付いた、梁を横断しそうな位置に開口がある。
木造2階建て、勾配屋根、吹付け塗装。周りに建っている住宅と構成要素はまったく同じである。だが、配列が慣習的なものとちょっとだけ違うようにつくられた住宅である。しかしそのささいなズレが生み出す自由さが全体に満ちていると感じた。ロバート・ヴェンチューリが「母の家」で取り組んだテーマの現代版。そして日本版、あるいは東京郊外版である。
「ビル」「倉庫」「小屋」ときて、この家は何だろうと考えた。「家の家」としか呼びようのない住宅に見えた。慣習を読み解き、「家」を構成する要素を丁寧に与え直した、「批判的な家(critical house)」である。今後、日本の郊外住宅地で住宅を設計するための、ひとつのプロトタイプを設計できたような気がした。
Project Date: 2012.11.01
所在地:東京都
竣工:2012年11月
用途:住宅
構造:木造
規模:地上2階
最高の高さ:6,480mm
敷地面積:48.90㎡
建築面積:48.90㎡
延床面積:84.27㎡
写真: 太田拓実