鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設

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「鶴ヶ島プロジェクト」が盛り上がっていた頃、ちょうど隣の敷地で別のプロジェクトが進んでいた。工場跡地のブラウンフィールドに太陽光パネルを並べ、発電所にする計画である。2011年3月の東日本大震災のあとで原子力発電に依存したこれまでの日本のエネルギー政策が見直され、太陽光発電所が注目されていた。郊外の工場跡地には住宅需要も少ないため、太陽光発電所の設置にはぴったりであった。ただし、住宅地にそんな大きな太陽光発電所をつくってもいいのか、疑問視する声もあった。

周辺住民と対話し、巻き込む手段として、私たちの試みが着目された。ちょうど「鶴ヶ島プロジェクト」に取り組んだ大学生たちが10名、大学院に進学していた。彼らが主役となってパブリックミーティングで投票を行いながら設計するプロセスはどうだろうかと思いついた。

計画中の施設には「環境教育施設」という名称がつけられていたが、内容はあまり具体化されていなかった。小学校や病院であれば何をする場所なのか想像がつくが、新しい施設なので、何をするところかよくわからない。とりあえず全体の面積と予算だけが決まっていた。その状態で住民に意見を求めても、何を意見すればよいかわからないだろうと思われた。そこで学生が建築家の役を務め、複数の案を複数回提示する。その過程で住民の意見を反映すると同時に、どうしたら彼らを巻き込めるか、議論をすることができると考えた。

ここでもまた、彼らのつくる模型が役に立った。ここで見せる模型は、建設予定のものを細密に再現するジオラマとは違い、「その時点で確かだと思えること」をとりあえずかたちにしたプロトタイプである。全体の予算は決まっているが、必要な部屋のリストも、面積表もない。自治体と民間企業が資金を出し合う複合施設なので、誰がメインの発注者なのかもよくわからない。そんなときに、例えば敷地のかたち、面積、配置、屋根のかたちなど、とりあえず確かだと思えることをかたちにしてみる。それをパブリックミーティングで提示して投票してもらいながら、何が課題なのかを探っていくのである。

10案の模型を提示する。するとどういうわけかゼロ票の提案がある。よく見ると、共通して2階建ての提案である。投票のあとでヒアリングすると、近所の自治会館が2階建てで階段の昇り降りにお年寄りが困っているのだという。そこで次回から「2階建てはNG」というルールが設計者にフィードバックされる。このように初めから「平屋限定」とわかっていなくても、かたちにしてみたら「それはダメ」という項目が見つかることがある。このようなやりとりを何度か繰り返すことで、設計の前提条件が明らかになることがある。

デザインという作業は、与件をすべて明らかにしてスタートするものとは限らない。むしろ新しい課題は、かたちにしてみないと見えてこないことがある。住民意見を聴く期間がしっかり設けられていたのにもかかわらず、建築工事が始まってから反対の声が上がることもあるのは、かたちになって初めて住民は事の重大さを知るからである。市民に意見をヒアリングして「コンセプト」をまとめ、「かたち」はデザイナーに任せましょう、というプロセスがときに不自然に映るのも、デザイナーがかたちにしたものを見ないと、事の本質がわからないからである。


縮小とかたち

実施プロジェクトならではの学びはもうひとつあった。集団で設計する時に、要求のヴォリュームと、予算の範囲内で実現できるヴォリュームのギャップをどのように共有するかという問題である。本来ならば発注者が事前に要求を整理しておいて、予算におおまかに収まるように全体の面積を調整をした上で設計の発注がなされるべきであるが、集団で発注し、集団で設計する場合だと、そのコミュニケーションに工夫が要求される。

「鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設」のプロジェクトでも、当初は関係者から要求されている面積の合計が予算内で実現できる面積をはるかに上回っていた。発電所の管理人が常駐する部屋と、市内の児童が訪れ環境について学ぶための部屋、鶴ヶ島市内にある企業が製造している鉄道模型を展示する部屋、というように、自治体と企業、それぞれの部署がばらばらに要求していたからである。しかもそれぞれ別々に管理できるように、トイレもキッチンも別々にほしいという。

発注者と設計者が1対1であればそのような問題が見つかればすぐに交渉することができる。ところが、いくつかの機能を複合化した施設の設計プロセスでは、誰が発注の責任者なのか曖昧になり交渉の相手が誰だかわからない。ザハ・ハディドが関わった新国立競技場でも同じ問題が起こっていたようだ。予算をオーバーしたのは勝手なデザインをした建築家が悪いのだ、と建築家のせいにされかねない。

そこで私たちは、少々アクロバティックであるが、10個のオプションを共通の特徴をもつ3つのオプションに絞った段階で、それぞれに対する見積り額を公開する作戦を採った。3つのオプションに投票と意見交換を行ったあとで「皆さんのご希望を叶えるようにするとこれだけの金額になります」と金額を示したのである。どの案も予定の2倍以上だった。すべてのオプションの見積り額がオーバーしていたことで、原因はデザインによって生まれたものではなく、要求が多すぎることだったことがわかる。

パブリックミーティングで「さてどこを削りましょう」と問いかけた。私はこの試みを「減額ワークショップ」と名付けた。私たちは要求を出すことには慣れていても、要求を減らすことには慣れていない。ワークショップは市民を自由にするが、ときとして謙虚さを失わせる。アイデアを模型にすることで、プロジェクトが担うべきリミットを「かたち」にすることもできることを示したかった。

「設計の本質は見積り調整にあり」とは丹下研究室の浅田孝の至言である。見積額が予算を大幅に上回ったときに初めて、ようやくどの要望を削るかを議論できる。そのプロセスで案のなかのどの要素が大事でどの要素が大事でないかを区別することができる。そのとき、いくつかのオプションがあると良い。そのような方法論を政策論では「オプション・アプローチ」というらしい。


記号とかたち

ヴォリュームを小さくしていくときに、アイデアを削るのではなく、アイデアは保存したままサイズだけを小さくすることはできないか。オプションを3つに絞る際に、得られた3つのオプションは、特徴を整理し、それぞれの特徴を構成する要素を明らかにした上で類型化するという、極めて構成論的なアプローチを採った。従って3つのオプションはかたちのレベルで10案の特徴を構成する要素をそれぞれ引き継いでいる。私は3つの案にそれぞれ名前をつけた。ひとつは象徴的な屋根とシンメトリーの平面形をもつ「教会型」。もうひとつはやさしい勾配屋根でゲート型の配置を採った「駅舎型」。もうひとつは親しみのあるスケールで街路を引き込みベンチを備えた「路地型」である。投票では「駅舎型」の人気が高かった。

人気が高いものを投票で選ぶと、他の案を支持する人の意見を殺すことになる。投票はあくまで見る人の主体性を引き出す仕掛けであり、結果の大小で多数決を取ることはしない。投票のあとにヒアリングを行い、それぞれの案を支持する人の「選んだ理由」を聞き出す。選んだ理由を知ると、建築のデザインに求めているニーズがわかってくる。

「減額ワークショップ」のあとで、トイレや部屋はできるだけ共有し無駄をなくしていくと同時に、3つの案を支持する理由となる構成要素はすべて残していくように統合した。最終の1案は、3案の評価されたそれぞれの要素がすべて残るように、慎重にデザインされた。3案はオリジナルの10案のオリジナルアイデアの何らかの要素が残るようにデザインされているから、最終1案にはオリジナルの要素が何らか残っている。

これは簡単なようでいて意外と難しい方法論である。かたちを見て特徴を言葉に置き換える練習が必要である。特徴はできるだけ単純な要素としてとらえた方が良い。集団で設計するなら「教会型」「駅舎型」「路地型」と特徴を要約しつつ、想像力を喚起する記号的なアプローチがこの設計方法には合っていると感じた。

市役所で市長や市民が同席したシンポジウムでは、このアプローチについて塚本由晴さんから異議が述べられた。塚本さんは「立ち上がってきたかたちに『教会』だとか『駅舎』だとか『路地』だとラベリングすることが暴力的だ。鶴ヶ島には教会も駅舎も路地もない。『未来と対話』するのではなく『過去と対話』するべきだ」という。市長は「歴史を切断して急速に発展した郊外住宅地では過去の延長で場所をとらえることはできない。『未来と対話する』というアクロバティックな回路を採らないとこの場所に場所をつくることはできない」と反論した。

いうまでもなく政治は「今ここ(right here right now)」の判断による影響を強めてしまう。「歴史との対峙」はその後の課題となった。また安易にかたちに「教会」「駅舎」「路地」と名前を与えてしまうことについても、慎重に考える必要があると感じた。

Project Date: 2014.03.01

所在地:埼玉県鶴ケ島市
竣工:2014年3月
用途:環境教育施設
構造:木造
規模:地上1階
最高の高さ:6,560mm
敷地面積:499.00㎡
建築面積:127.82㎡
延床面積:127.82㎡

写真: 太田拓実、東洋大学ソーシャルデザインスタジオ

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10 proposals for 1st Public Meeting / May-11 2013

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10 proposals for 2nd Public Meeting / May-25 2013

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3 proposals for 3rd Public Meeting / June-22 2013

Station hut type | 43pts

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Church type | 19pts

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Alley type | 17pts

Alley type | 17pts

1 proposals for 4th Public Meeting / July-13 2013

1 proposals for 4rd Public Meeting / July-13 2013

1 proposals for 4rd Public Meeting / July-13 2013