小さなアパートの設計に際し、屋根、壁、床、天井、窓などの記号を使わないで設計することを試みた。できるだけピュアなコンクリートの箱を用意し、開口を「窓」として設計するのではなく、「穴」として設計する、というように。これまで幾多の建築家が試みてきたことで、特段珍しいことではないかもしれないが、記号の戯れに慣れてしまった自分にとってはとても大事な訓練だった。
均等に空けられた開口をよく眺めると、1階の開口がゴミを保管する倉庫と重なってしまっていることに気がついた。そこでゴミ箱を避けるように開口を動かした。そのことをきっかけにして他の開口との関係が調整され、独特のゆらぎをもつ全体が出来あがっていった。
箱を箱として扱う、という目標がバルコニーを北側に置くというアイデアにつながった。都心部では洗濯物を外に干さないことが多い。そこで階段側の玄関を開けたらいったん外部バルコニーに入り、そこから部屋に入るという平面を設定した。玄関に鍵を掛けていてもバルコニーに向けて建具を開けておけるので南北に風が通り抜ける。
断面に関するアイデアとしては、限られた建物の高さを均等に割るのではなく、階高を50mmずつ変えて、より明るい上の階は高さを絞り、そのぶんより暗くなる下の階に、より多くの高さを配る設定とし、積層することの意味を各部屋に取り込もうとした。
Project Date: 2011.02.01
所在地:東京都目黒区
竣工:2011年2月
用途:共同住宅
構造:鉄筋コンクリート造
規模:地上5階
最高の高さ:12,750mm
敷地面積:102.80㎡
建築面積:60.93㎡
延床面積:302.23㎡
写真: 太田拓実